ドラフトの戦略7

デッキが変わると評価も変わる!


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「ドラフト点数表」は万能ではない!
では、どういう場面で、現実と差が出てくるのか? ドラフトの戦略3 〜点数表の限界〜 では、その一例として、「環境とシナジーしやすいカードは、順目によって価値が変化する」ことを書きました。
これも、もちろん考慮しておきたい事柄ではありますが……
現実のピックにおいて、より大きく影響するのは、言うまでもなく「今自分が作っている(作ろうとしている)デッキと、合うか、合わないか」 という観点での評価です。
この評価は、細かなカード間のシナジーなどを見ていくとキリがないのですが、大雑把な見方でなら話ができます。一言でいうなら「デッキのバランス」になります。
今回は、バランスを決める要素の中でも、特にカード評価に大きく影響するもの2点について、取り扱います。…具体的には、(1)色のかたより と、(2)デッキの速さ です。

ドラフト点数表 の落とし穴

「ドラフト点数表」の特質は良くも悪くも、「均質であること」です。
点数表は「標準的なデッキ」を基準にして作られるものが多いです。このサイトでも然り。「標準的なデッキ」とは、いわゆる「2色の中速デッキ」です。
つまり、自分のデッキが「2色の中速デッキ」から外れる場合、ピックの際に点数表の評価がアテにできなくなります。たとえば、単色のデッキを作っている場合や、赤黒の高速アグロデッキを狙っていきたい場合などです。

ピックが進むと、自分が今作っているデッキの色のかたよりや、速さがどうなっているかの判断材料が整ってきます。判断した結果、自分のデッキが「標準的なデッキ」からズレている場合には、ピックの際、ズレに応じてカードの点数評価そのものを上下させ、補正すれば問題ありません。
このとき注目するのは、特にカードの「色拘束」「マナ・コストの大きさ」 です。


(1) デッキの「タッチ・カラー」 と 「色拘束」

卓内での色の共存などの関係で、2色が均等に取れず、一方に「かたよった」ピックになることが、ままあります。このとき、注目すべきは、タッチ・カラー の方です。3色以上のデッキの場合は、メインが1つ、他をすべてタッチ・カラーと考えます。(※ アラーラの断片・ドラフトは例外)
色がかたよってしまった場合、デッキ内のカードの枚数にあわせて土地配分を寄せたほうが、スムーズにプレイできますから、タッチ・カラーの土地は戦場に出にくくなります。結果、タッチ・カラーの色拘束が強いカードは、唱えられない状況に陥りがち。唱えられないカードは手札に留まり、ゲームの邪魔をするので、デッキに組み込まない方が、ひいては初めからピックしない方が賢明です。

 評価点数の補正

さて、ドラフト点数表では、「均等な」2色デッキを想定していますから、 自分のデッキをどちらかの色に「寄せている」場合には、「色拘束の強い」カードの評価が上下します
※ 「色拘束」とは、プレイ時に色マナが多く必要になるという制限のこと。色マナが多く必要なカードのことを、色拘束が「強い」カード、と呼びます。マナ・コスト(1BBB)のカードは、(3B)のカードに比べて色拘束が強いわけです。 
※ マナ・コスト上、色拘束に問題なくとも、実質的に色マナがないと威力が下がったり、スムーズに運用できないカードもあります。M10の《魂の消耗》や、ゼンディカーの《尖塔の連射》、エルドラージ覚醒の《闘争の学び手》など。これらも「色拘束の強いカード」と考えてください。
例えば、
黒をタッチした青デッキにとって、色拘束の強い黒のカードの評価は、記載の点数よりも「下がり」、
逆に、黒単デッキにとっては、色拘束の強い黒のカードの評価は、記載の点数よりも「上がり」ます。

点数表:8
《ニルカーナの亡霊》
―[補正]→  9点+ @ 黒単デッキ
 8 @ 2色が均等な青黒デッキ
 7 @ 青メインのタッチ黒デッキ
(※ 点数は 10-05-09 時点)
※ どの程度、点数が変化するかはケースバイケース。
ダブルシンボルの場合は、概ね0.5〜1点相当。

もし2パック目終了の時点で、コスト(4UUU)の《マゴーシのスフィンクス》をはじめ、取れた青カードが充実しており、黒も少し取れている状況とします。黒をタッチ・カラーとする青黒デッキにすれば、安定性が上がりそうです。
この場合、3パック目で、コスト(3BBB)の《地獄彫りの悪魔》を見かけても、(「色の共存に成功していて、上から黒が十分流れてくることが期待できる」等の理由がない限りは)ピックすべきではないです。
デッキに入れても、ゲーム中に黒マナが揃う可能性が低いので、まずプレイできず、確実に足かせとなってしまいます。

 軽いが、色拘束の強いカード

(1GG) や (BB) などの、軽いマナ・コストを持つカードについて補足します。
クリーチャー・カードならば、序盤に出せないと困るので、タッチ・カラーとして色拘束の強いものを使うのは避けた方が無難です。
カード評価の際にも、色拘束を考慮する必要があります。
ただし、インスタントやソーサリー・カードなら、ダブルシンボル程度の色拘束は気にせず、デッキに入れて構いません。これらの呪文を使う機会はゲーム中盤〜後半のほうが多く、クリーチャーと違って序盤のプレイにこだわる必要がないためです。


(2) デッキの「速さ」 と 「マナ・コストの大きさ」

 デッキの速さ

デッキは、そのマナ・コストの大きさによっておおまかに分類できます。
横軸に点数で見たマナ・コスト、縦軸に完成したデッキに含まれるカード枚数をとって、比較すると、次の図のようになります。
高速型
  1〜3マナ域のカードが大部分を占める。テンポを重視する速攻タイプ。
  序盤から相手の準備が整わないうちにダメージで押し切る構成。
中速型
  序盤に必要な小型クリーチャーから、フィニッシャーまでをバランス良く配置。
  リミテッドでは一般的な構成で、通常は2〜3マナ域のカードが最多となる。
低速型
  序盤は我慢し、後で盤面をひっくり返す構成で、カード・パワーを重視する。
  マナ・コスト平均も3マナ以上。重いが強いカードが複数取れた場合に。
高速型デッキ
mana_curve_fast
中速型デッキ
mana_curve_mid
低速型デッキ
mana_curve_slow

デッキの速さは、構成しているカードのマナ・コストの大きさでほぼ決まる、と考えて良いです。優劣は一概には言えませんが、マナ・コストの軽い高速型は「テンポ重視」 で、マナ・コストの重い低速型は「カードパワー重視」 の戦略を取ります。
序盤だけならば、高速型のデッキが圧倒的に強いです。ただし、序盤で削りきれずゲームが長引くと、長引いた分だけ1枚あたりの「カードパワー」がものを言うようになり、低速型のデッキが力を持つようになります。
※ (余談) ―― マナ・カーブの「美しさ」について
マナ・カーブの「美しさ」にこだわってデッキを作る人がいますが、リミテッドでは、カーブの形を事細かに意識する必要は全くありません。大雑把に見て2〜4マナあたりにピークがあれば十分です。
毎ターンにテンポ良くマナを使うことが重要な、スライ等の構築デッキでは、確かにマナカーブの形状は与えるダメージ効率、すなわちデッキの強さに直結します。しかし、まちまちの強さのカードがデッキに入るリミテッドでは、マナ・コストを基準に最大効率を考えること自体、重要になりえませんし、現実的でもありません。
3マナ域が少ないからといって、強い2マナのカードをスルーして、わざわざ3マナ域の弱いカードをピックするのは愚かです。2マナのカードだって、3ターン目に唱えられるわけですから。形式的な美しさよりも、マナ相応の強さやシナジーを持つかどうかに目を向けて、ピックやデッキ構築することを勧めます。

 環境の速さ

環境のカード・プールに応じて、戦略に、勝ちやすい・勝ちにくいの差が出てきます。
高速型のデッキが有利な環境を「環境が速い」と言ったりすることがあります。
ドラフト点数表では、環境で平均的な速さを持つデッキを想定して点数付けをしますから、全体として、
速い環境 では、「低マナコスト」のカードに人気が集中し、
     「高マナコスト」のカードの評価が下がる
遅い環境 では、「高マナコスト」のカードも適切に評価されるかわり、
     「低マナコスト」のカード(特にクリーチャー)の評価が下がる
という傾向があります。
全く同じ能力のクリーチャーでも、入っているエキスパンションが違うと点数が変わる理由の1つは、「環境の速さ」の違いによるものです。

 自分のデッキの速さ

環境の速さを知っておくのは大事ですが、ピックの際は、環境の速さよりも、「自分のデッキの速さ」の方がより重要です。速さは、デッキの中のカードのマナ・コストの軽さ、と言い換えて構いません。
自分のデッキが、「平均的な」デッキと比較して、速いか、遅いか が1つの判断のポイントになります。環境の速さと差がある場合には、マナ・コストに応じて評価を上下させた方が、カードの「自分のデッキの中での強さ」を適切に見積もることができます。

例えばゼンディカー環境で、自分が赤をピックしているとして、仮に《ゴブリンの近道抜け》《髑髏砕きの巨人》が同時に来たならば、どちらを取るか? どちらもそれなりに強力な部分を持ちますが、点数表では私GRは同程度(6.5点)に評価しています。ただ、評価の観点は、両者でかなり違います。
《髑髏砕きの巨人》は、4マナ4/3というサイズが頼れるクリーチャーで、このサイズに6.5点付けています。中盤〜後半、いつ戦場にあっても、そこそこの「脅威」となりえるでしょう。
《ゴブリンの近道抜け》は速いデッキ向けで、2マナ2/1というサイズと軽さ(5.8点)、戦場に出たときにダメージを通しやすくなる能力(+0.7点)を持ちます。
自分が赤黒アグロの「速い」デッキを作っているなら、4マナたまるのを待っていられません。相手の準備が整う2〜3ターン目のうちにクリーチャーを展開することが重要なので、《ゴブリンの近道抜け》を取るべきです。また、この能力も序盤の方が効果的な使い方がしやすいので、テンポ戦略を取るデッキと相性の良いカードです。
一方、初手で《ヘルカイトの突撃者》が取れるなどして、赤緑の中速デッキを作っている場合はどうでしょうか。《ゴブリンの近道抜け》の能力は、ブロッカーが複数並んでいる状況では機能しにくく、ゲームが長引けば優位性が小さくなります。ゲーム後半では、残った2/1もあまり期待できません。序盤に確実に出せるかわからない2/1よりも、ゲーム後半まで活躍し得る4/3の《髑髏砕きの巨人》を取るという選択ができるわけです。

点数表:6.5
《ゴブリンの近道抜け》
―[補正]→  7 @ 高速型デッキ
 6.5 @ 中速型デッキ
 6 @ 低速型デッキ
(※ 点数は 10-05-09 時点)

これを踏まえると、デッキの速さが点数に与える影響は…
自分のデッキが「速い」 なら、記載された点数よりも、
マナ・コストの軽いカードの評価が上がる
マナ・コストの重いカードの評価が下がる
自分のデッキが「遅い」 なら、記載された点数よりも、
マナ・コストの軽いカードの評価が下がる
マナ・コストの重いカードの評価が上がる
という関係になります。

実際のところ、デッキの速さは、1〜2パック目の初期にピックしたカードでほぼ決まります。早いうちに方針を決め、それを貫き通せると、まとまりのあるデッキに仕上がります。
ドラフトに慣れてきたら、自分のデッキの「速さ」に合わせて点数を直してみてください。


 おわりに

点数表を上手く使う、ちょっとしたコツ。
作っている自分のデッキの「色のかたより」と「速さ」とを見て、平均から外れていたら、個々のカード評価に補正をかける……
これが自然とできるようになれば、もう点数表の助けは要らないでしょうか?

繰り返しますが、「ドラフト点数表は万能ではない!」ってことを十分に頭に入れた上で、点数表を使いたおしてくださいませ。良いピックを!

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