ドラフトの戦略8

《聖句札の死者》は出るか? 計算するよ!


第7回】 ← ドラフトの戦略 → 【第9回

 M11のアーティファクト・シナジー

M11発売! 皆さん、ドラフト楽しんでいますか?
色んなカードとシナジーを持つカードは、点数づけが厄介です。
これらのカードは特に、何度かドラフトをしないと適切に評価するのは難しいなあ、と常々感じています。

ただ、ドラフトで試行錯誤せずとも、
  「何枚くらい、ピックできそうか」
  「どの程度、唱えるチャンスがありそうか」
といった事柄は、確率計算 の手を借りれば、大雑把に見積もることができますので、
(管理人のGRが、以前から内に秘めていた「点数表を使い倒してみたい」という思いもあって)、
今回はこれに挑戦したいと思います。
数字が苦手な方は、式を読みとばしてくださいませ。

早速、M11にあるシナジーを持つカードについて考察していきますが…
今回取り扱うのは、アーティファクトがないと十分に強さを発揮できない
 ・《聖句札の死者》
 ・《鋼の監視者》
の2種のカードについてです。

前者は、「3マナ5/5破壊されない」というクリーチャーですが、
 (1) 黒マナ3つが出せる
 (2) アーティファクトがプレイされて戦場にある
という条件をクリアしないと、そもそも場にすら出せません。
強いアーティファクトは概して(3)マナ以上なので、序盤3ターンめから出てくることはほぼ無いですが、ゲーム後半に出てきても強そうな感じがします。

後者は、自身を含め、アーティファクト・クリーチャーを強化する能力を持ちます。
第1パックでこれを取ったなら、そのあと優先的にアーティファクト・クリーチャーを集めれば、アーティファクト満載デッキも作れそうな気がします。
M11のアーティファクト・クリーチャーは強いので、集められれば、かなり強いデッキが作れそうに見えます。

これらの評価をする上で、一連のドラフトのピックで、何枚ほどアーティファクトを (またはアーティファクト・クリーチャーを)集められるのか が気になるところです。
さっそく、大雑把に計算してみましょう。


 希少度別のカードの出現率

パックの中のカードをすべてごちゃまぜにした場合、希少度ごとに出やすさは異なります。
どのくらい違うのかを見てみましょう。
まず、簡単のため、基本土地と、フォイル・カード(プレミアム・カード)を無視します。
M11のパックの場合、レアもしくは神話レアが1枚、アンコモンが3枚、コモンが10枚含まれ、神話レアの封入率は(従来のものと同じと考えると)8パックに1つ程度だそうです。

M11では、神話レアが全15種、レアが全53種、アンコモンが全60種、コモンが全101種なので、1パック内から出てくる期待枚数は、このようになっています。
・ある特定の神話レアが出る、期待枚数は、
   (1 / 15) × (1/8) = 0.0083 (枚)
・ある特定のレアが出る、期待枚数は、
   (1 / 53) × (7/8) = 0.0165 (枚)
・ある特定のアンコモンが出る、期待枚数は、
   (1 / 60) × 3 = 0.05 (枚)
・ある特定のコモンが出る、期待枚数は、
   (1 /101) × 10 = 0.0990 (枚)
つまり大雑把に見て、特定のカードの出やすさは、
神話レア:レア:アンコモン:コモン = 1 : 2 : 6 : 12
となっています。

神話レアを各1枚、レアを各2枚、アンコモンを各6枚、コモンを各12枚 混ぜた1693枚の束を作ったとします。
これを束A と呼ぶことにすると、
「M11のパックから、基本土地以外をランダムに1枚取る」ことは、
確率的には束A から1枚取る」のと同じ とみなせます。

ここで、束A に入っているカード枚数の、希少度別の分布は次のようになっています。
(強さの基準がほしかったため、ver.2010-07-24 時点の、ドラフト点数表の得点を使いました)
得点9+8.57.56.55.54.54-total
神話4810001100015
レア1618801082224810106
アンコ01830547830486241854360
コモン00243696144228288192120841212
total204463901841822992972201461481693
累積16931673162915661476129211108115142941480


 アーティファクトは何枚取れるか?

話を単純にするため、
・自分は、「点数5以上のアーティファクト」があれば、それを取る。
  なければ、色に関係なく点数の高いカードをとる。
・他の7人は、色に関係なく点数の高いカードをとる。
・同点数のカードが複数ある場合、どれを取るかはランダムとする。
というルールに則ったピックを行い、自分が(デッキに入る)アーティファクトを何枚集められそうかを考えましょう。

さて、デッキに入れたい「5点以上のアーティファクト」は、束A の中に、これだけ入っています。
得点9+8.57.56.55.54.54-total
枚数430181262620053
累積5349464628161082000

さて、各回のピックで巡ってくる束に、欲しいアーティファクトが含まれる確率を見積もりましょう。
正確に求めることも可能だと思いますが、場合分けが煩雑になるので、ここでは次の仮定を置いて簡便に計算したいと思います。
・最高得点が m 点であるような、n 枚の束から1枚取り出したとき、それが欲しいアーティファクトである確率 Pn,m が、
Pn,m = 「束A に含まれる n 点以下のアーティファクトの総数」÷「束A に含まれる n 点以下の全カードの総数」
の式で出せるものとする。
・自分の1回目のピックの影響を無視する。
(パックの1巡目で自分がアーティファクトをピックした場合、2巡目ではアーティファクトが含まれる確率は減るはずですが、この減り分を無視しています)

さて、最高得点が m 点であるような、n 枚の束に含まれるカードの中に、欲しいアーティファクトが1枚以上含まれている確率は、上の Pn,m を用いると、
1 - ( 1 - Pn,mn )
とかけます。

14枚の束から得点の高いカードから順に引いてゆき、残った n 枚に含まれるカード点数の最高値が m である確率を Fn,m と表すことにすれば、
n 枚の束(第 15-n ピック目)に含まれるカードの束に、欲しいアーティファクトが1枚以上含まれている確率は、
Σm [ { 1 - ( 1 - Pn,mn ) } ・ Fn,m ]
とかけます。

  ※ 補足 : Fn,m について
Fn,m は正確に計算できますが、書くと長くなるので省略。結果だけグラフで示します。「1st pick」が n=14 のとき。横軸が m で、縦軸が Fn,m です。
trace_pick得点の高いカードは少ないため、初めの数ピックでは、1枚取るごとに劇的に点数の最高値が下がります。
形がいびつなのは、主に、各点数域に配置されているカード枚数がばらばらなためです。

たとえば、第4ピック・11枚のカードの中に、欲しいアーティファクトが1枚以上含まれている確率を求めると、
{ 1 - ( 1 - ( 53 / 1693 ) 11 ) } ・0.000 ←[最高得点が9.0点の束の分]
+ { 1 - ( 1 - ( 49 / 1673 ) 11 ) } ・0.001 ←[最高得点が8.5点の束の分]
+ { 1 - ( 1 - ( 46 / 1629 ) 11 ) } ・0.016 ←[8.0点…以下同様]
+ { 1 - ( 1 - ( 46 / 1566 ) 11 ) } ・0.077
+ { 1 - ( 1 - ( 28 / 1476 ) 11 ) } ・0.338
+ { 1 - ( 1 - ( 16 / 1292 ) 11 ) } ・0.334
+ { 1 - ( 1 - ( 10 / 1110 ) 11 ) } ・0.214
+ { 1 - ( 1 - ( 8 / 811 ) 11 ) } ・0.020
+ { 1 - ( 1 - ( 2 / 514 ) 11 ) } ・0.000
+ { 1 - ( 1 - ( 0 / 294 ) 11 ) } ・0.000
+ { 1 - ( 1 - ( 0 / 148 ) 11 ) } ・0.000
これを計算して、確率は 0.155 程度とわかります。
すなわち、第4ピックでは、平均して 0.155 枚のアーティファクトを回収できる 、という意味です。

同様にして、各ピックから回収できるアーティファクトの枚数を求めると、以下のようになりました。
pick1st2nd3rd4th5th6th7th8th
枚数0.3240.2650.2050.1550.1190.0940.0760.062
pick9th10th11th12th13th14th-total
枚数0.0490.0340.0200.0090.0030.000-1.415
1パック14回のピックで かき集められるアーティファクトの数は、平均して 1.415 枚。
全ドラフト(3パック)なら、この3倍、1.415×3 = 4.245 (枚) が期待できます。

同様のことをアーティファクト・クリーチャーについて行うと、
pick1st2nd3rd4th5th6th7th8th
枚数0.1610.1310.1010.0720.0480.0290.0160.008
pick9th10th11th12th13th14th-total
枚数0.0030.0000.0000.0000.0000.000-0.571
3パック中に、0.571×3 = 1.71 (枚) のアーティファクト・クリーチャーが取れる計算になりました。

実際には、アーティファクトが流れてきても、より強力な別のカードを取りたい場面も出てくるでしょう。現実には、そのぶんデッキに入るアーティファクトの枚数は少なくなると思います。
無条件でアーティファクトを集めるなら、平均して4枚のアーティファクト、2枚のアーティファクト・クリーチャーを期待してよいようです。

  ※ 補足2 : 点数づけの影響について
ちなみに、この計算では自前の点数表を使って値を算出していますが、つける点数が多少前後したとしても、確率分布は大きく変わらないので、結論の見積もり枚数には大きくは影響しません。
ただし、「デッキに入るアーティファクトとして、どれを候補とするか」という選択(とくに束A に含まれる総数)の影響は大きいです。
たとえば、「黒のラッキーチャームは何枚でもデッキに入れて良し」としてかき集めにかかるなら、得られるアーティファクトの期待枚数は 平均 6.06 枚となり、大きく増えます。


 デッキに入れたとき唱えられるのか?

さて、次に、《聖句札の死者》と k 枚のアーティファクトを入れたデッキを想定して、
「15枚めのカードを引いた時点(通常は8ターン目)で、《聖句札の死者》を出せるか?」
を考えましょう。
アーティファクトのマナ・コストや、黒マナ3つの条件、土地事故などの影響を無視し、とりあえず
「手札に必要なカードが揃ったら、プレイできる」として考えることにします。
すでに引いた15枚中に、《聖句札の死者》がある確率は、
15 / 40 = 0.375
です。
また、15枚中に、《聖句札の死者》とアーティファクトが1種以上来るのは、
{ k139-k13 + k239-k12 + k339-k11 + … + kk39-k14-k } / 4015
の式で出せます。いろいろな k について計算すると、
k=1 のとき、確率 0.134
k=2 のとき、確率 0.223
k=3 のとき、確率 0.281
k=4 のとき、確率 0.317
k=5 のとき、確率 0.340
k=6 のとき、確率 0.355
k=7 のとき、確率 0.363
となっています。
アーティファクトをかき集めれば、平均してデッキに4枚程度は入れられますから、
0.317 の確率(およそ3ゲームに1回)で、8ターン目までに《聖句札の死者》を唱えられそうです。
また、アーティファクトが4枚入っているデッキで、《聖句札の死者》が手札にあるのに、アーティファクトが無いために唱えられず、悔しい思いをするケースは、
1 - 0.317 / 0.375 = 0.154
より、7回に1回くらいの頻度だとわかります。
初手に《聖句札の死者》が来たなら、アーティファクトを集めてみるのも面白いのではないでしょうか。
うまく集められず、デッキに入っているアーティファクトが3枚なら、いわゆる事故率は
1 - 0.280 / 0.375 = 0.253
4回に1回くらいの頻度だとわかります。こうなると、採用は難しいかもしれません。

同じようにして、《鋼の監視者》と、他のアーティファクト・クリーチャーが、8ターンめまでにどの程度引けるか(唱えられるか)も考えていきましょう。
《鋼の監視者》 + 他のアーティファクト・クリーチャー1枚 なら、0.134
(→ 1 - 0.134/0.375 = 0.643 より、自分だけ出て、他のが出ないことが3回に2回ある)
《鋼の監視者》 + 他のアーティファクト・クリーチャー2枚 なら、0.223
(→ 1 - 0.223/0.375 = 0.405 より、自分だけ出て、他のが出ないことが5回に2回ある)
という状況。
《鋼の監視者》は自身を強化できるとはいえ、能力をフル活用して他のクリーチャーに恩恵を与える機会は、そう多くなさそうです。


 まとめ

他を差し置いて かき集めれば、
平均して 4.2 枚の(デッキに入りうる)アーティファクト
     1.7 枚のアーティファクト・クリーチャー をピックできる。
(あくまで、仮定をおいた上での計算結果です)

アーティファクトが4枚入ったデッキなら、8ターン目までの間、
《聖句札の死者》が手札にあるのに、アーティファクトが無いために唱えられず、悔しい思いをする」ケースは、7回に1回くらいの頻度で、そんなに多くない。
デッキに入れてプレイする余地は、十分ありそう。

(注意)
今回、考えたのは「唱えられるかどうか」のみで、アーティファクトが《帰化》などの対策呪文で壊されてしまうケースは、まったく考慮していません。
対策手段を豊富に持っていそうな相手と対戦する場合には注意。この計算を過信しすぎないように!


 おわりに

「平均」から見たM11のアーティファクト・シナジーは、こんな感じになりました。
レアとはいえ、《聖句札の死者》 は嫌われているせいか良く回ってくるようですので、ドラフトの実践でチャンスがあれば、シナジーは狙ってみたいと思います。

今回、読んで頭が痛くなってしまった人、ごめんなさい。
確率計算なんて暇つぶしのようなものですが、1度くらいは書いておきたかったのです。
(上記のレポート、もし大きな誤りが見つかりましたら、別の回で修正します。その際はご容赦を…)
ではまた!

第7回】 ← ドラフトの戦略 → 【第9回



'Blinkmoth'トップへ戻る