ドラフトの戦略9

M11。強い色、弱い色


第8回】 ← ドラフトの戦略 → 【第10回

 マジックにおける「色」

マジックにおいて、色はそれぞれが役割を担っており、できること・できないこと がハッキリしています。たとえば、黒ならエンチャントにはどうしても触れませんし、緑ならクリーチャーを直接除去する手段はきわめて限られています。
こうした設計によってマジックに深みが与えられ、よりオモシロいゲームになっているという意見には、私GRも同意します。[→ 参考:色の役割(Mtg: Wiki)]
単色のデッキは、色事故を気にせずに、色拘束の強いカードを縦横無尽に使えるという大きなメリットがありますが、色によっては「対応できない」事態が出てくるかもしれません。また、ドラフトでは供給されるカードの量は限られるため、他とうまく強調できなかった場合、強いカードが十分な数まわってこないという恐れもあります。
自ずとドラフトでは2色以上のデッキを作る機会が多くなります。受けを広く取り、各種のカードに柔軟に対応できるようにしておくと、デッキの相性差による不運(=対応できないカードを出されて何もできなくなるという、悔しい負け方をするケース)を、ある程度まで減らすことができます。
今回は、ドラフトにおける「色の強さ」に迫りたいと思います。

 M11の各色の特徴

M11のカード群も、色の特徴を踏まえたものになっています。ここには大まかに書いておきます。細かなカードを通しての話は、随所にある各色レビューなどを参考にしてください。
:飛行クリーチャーが優秀で、数が多い。限定的だが、除去もできる。地上をうまく抑えて、こちらだけ飛行クリーチャーでダメージを通す戦略が一般的。
:ライブラリ操作やドローに優れる。バウンスを駆使して序盤からテンポで一気に攻めるか、防御を固めてカード・アドバンテージで相手を圧倒して勝利を狙う。
:クリーチャーの除去に優れる。手札破壊や、墓地からのクリーチャー回収もできる。相手とのカード・アドバンテージ差を利用して、こつこつ勝利に向かう。
:ダメージ呪文(火力)に優れる。1ターン限定で大きな効果を与えるカードが多い。相手の隙をついて本体のライフを削り、一発逆転をねらう戦術。
:中型〜大型クリーチャーが優秀。また、マナ加速に優れ、早いターンにクリーチャーを展開できる。とにかく数が多いクリーチャーを展開しての物量戦術となる。

最近のセットはデザインの時点でリミテッドの環境も考慮されるそうで、比較的 色ごとのバランスが取れるように作られていると言われています。どうやら、R&Dもリミテッドでの点数評価を作って活用しているようですね。[→ 参考:Looking at Limited Pointing(公式ウェブサイト)]
ただ、ドラフトの経験を重ねるたび、それぞれの環境で、勝ちやすい色やその組み合わせがあることにお気づきだと思います。
各セットが出るごとに何となく書いてきましたが、M11環境だと私の実感では、
(強い) 青 > 緑 > 白 > 黒 >> 赤 (弱い)
という順です。
ちなみに、三田村 和弥さんが執筆されている「三田村リミテッド研究室:基本セット2011編(公式ウェブサイト)」では、
(強い) 黒 > 青 >> 白 > 赤 >>>>>> 緑 (弱い)
と順序づけされています。自分のものと比べると、青 > 白 > 赤 の3つしか合っていない! けっこう違うのに驚いたものです。

どうやら、実感による評価だと、どんなプレイスタイルが好きかといった要素も入ってくるようです。まあプレイスタイルによって色の評価が割れるということは、色ごとの強さが似たり寄ったりということなのでしょうか。
では、どの色が強いのかを、「実感」に頼るのではなく、もう少し客観的に決めることはできるのでしょうか? 今回は色の強弱を評価する方法を色々試してみたいと思います。

 1.対戦成績 を眺めてみる

以下は、個人的な結果で恐縮ですが、私GRがMOで8月半ばにやったM11-8人ドラフト結果12回分を時系列順に並べたものです。(註:トーナメント形式でのドラフトなので1度負けたら終わりです。12回のうち、1回戦突破:7回、2回戦突破:5回、決勝突破:3回)
( 1) 黒緑 2没 (vs青緑黒 2-0、vs青緑黒 0-2)
( 2) 白青+黒 1没 (vs黒緑 1-2)
( 3) 緑赤 1没 (vs黒 0-2)
( 4) 黒 3没 (vs青白赤 2-1、vs緑黒青 2-1、vs白赤 1-2)
( 5) 緑白+黒 優勝 (vs緑黒 2-0、vs白赤 2-0、vs黒 2-0)
( 6) 青赤 1没 (vs赤黒 0-2)
( 7) 緑青+黒 優勝 (vs緑白青 2-0、vs青白 2-0、vs黒 2-1)
( 8) 白青 2没 (vs青赤 2-1、vs白青 0-2)
( 9) 緑青 優勝 (vs白緑 2-0、vs白赤黒 2-1、vs赤黒 2-0)
(10) 白赤 1没 (vs黒青 0-2)
(11) 緑黒+赤 3没 (vs赤白 2-0、vs青白 2-1、vs青白赤 0-2)
(12) 緑青+黒 1没 (vs赤緑 0-2)
こうして分析すると思ったよりも1没が多く見えるのでドキッとしますが、今回はそれは置いておいて、デッキ色に注目します。
緑青系統のデッキで2回、緑白系統のデッキで1回優勝していますが、全体を眺めても、そもそも青黒のデッキなんてほとんど作っていないことがわかります。
別に好みで色を決めているわけではないですが、ピック中「この色ならいけそうだ」と判断するときに色眼鏡で見ている、ということなのでしょう。
いうなれば、私GRにとっては「M11では青と緑は良く使うから、勝っているという印象が強く残っている」……したがって「青と緑は、M11では強いと思いこんでいる」だけにすぎないのかもしれません。
この記録は、自分の得意な色を見つけるためには それなりに有効そうですが、色ごとのデータの数がばらばらなため、色の強さについてどうこう言うのには使えなさそうですね。

個人の記録でダメならば、ドラフト優勝者のデッキを分析してみたらどうでしょうか?
「ドラフトで作られた全てのデッキ」の中で、特定の色のデッキが優勝しやすいかどうかを調べれば良さそうですが、サンプル数が少ないと上と似たような状況となり、情報はほとんど得られないでしょう。
1000くらい集めて統計を取れば傾向が見えてくるかもしれません。まず集めるのが一苦労ですが、ただ、この方法で探っても苦労の割に報われないのではないか、と危惧します。
・強力なレア等、デッキごとに要となるカードが違う。つまり、勝った原因と、色の選択との関係を判断するのが難しい。
・優勝したデッキと、デッキの強さとは必ずしも関係しない。結果には、運の要素や、卓の状況による誤差の影響が大きく含まれ、これらを無視できない。
といった事柄を考えると、出てきた結果を色の強さに帰着させることには疑問が残ります。

 2.ドラフト点数表 を見る

せっかく点数表を作っているので、これを活用しましょう。色ごとのカードプールの強さは、これを個々のカードの強さの総体として推測することはできそうです。
点数そのものにハッキリした根拠があるわけではないですが、カード間の相対的な強さの評価が適切に行われていると「仮定」すれば… 平均値の上下で比較できます。
神話レアやレア・アンコモンについては、出現比の補正(※) をかけて平均します。
(※ 神話レア:レア:アンコモン:コモン = 1:2:6:12)
「評価9+」は 9点、「評価4-」は 4点 として一律に計算すると、こうなりました。
青: 6.05点 (コモンの平均値: 5.825点)
白: 6.03点 (コモンの平均値: 5.75 点)
黒: 5.98点 (コモンの平均値: 5.85 点)
緑: 5.82点 (コモンの平均値: 5.55 点)
赤: 5.75点 (コモンの平均値: 5.325点)
微妙な差ですが、点数表にも傾向が反映されるようですね。
  ※ 今回の結果は、ver.2010-08-20 の点数表を使って算出しています。

 3.モデルデッキ を作る

カードの機能を色ごとに眺めても、得意・不得意があるので一概に強弱はわかりません。しかし実戦で使ったならば、おのずと強さは勝ち負けとして現れてくるはずです。
各色の「アンコモン4枚・コモン8枚と、対応した土地8枚」をセットにし、任意の2色のセットと 《広漠なる変幻地》 を加えた41枚の「モデルデッキ」を作ります。この「モデルデッキ」どうしを対戦させて、色ごとの相性や、勝率に違いが出てくるかを確かめようと思います。
「モデルデッキ」は、ピックから「普通に」作られそうなデッキをめざしました。基本的に、カードは各色ごとに点数の高いものから1枚ずつ選んでいます。
デッキリスト(※ MWS形式)
 → 白青(WU)青黒(UB)黒赤(BR)赤緑(RG)緑白(GW)
ただ対戦回数が3回だけでは、デッキの強さがどの程度なのか大雑把にしか判りません。ある程度の勝率を知りたかったので、対戦回数を増やして勝率を出すことにします。勝ちゲーム数が3以上になるか、ゲーム回数が10回になるまで行うことにしました。

 ※ このシミュレーションの補足
・ここに示す結果は、すべて私GRの一人回しによるものです。そのためGRのプレイの癖が反映されています。(途中まではY君に協力してもらっていましたが、作業が地味で退屈なので申し訳なく、止めました。)
・相手が使うカードプールはすべて判っているものとして対戦しています。知らないものとして対戦するのは現実的に難しいためです。たとえば、青系のデッキと対戦する場合には、《マナ漏出》《精神の制御》が来るかもしれないと思いプレイしますが、《否認》される心配はしていません。
・先手/後手は、偏らないよう交互にはじめています。簡単にするため、マリガンする基準は「初手の7枚にある土地が、1枚以下or6枚以上」の条件のみとします。
・アーティファクトは入れないので、「アーティファクトに対策できる」という観点での強さは、今回の評価には入りません。
《湾口の海蛇》《垂直落下》など、相手によってサイドボードすることで有利になるカードはコモンにもありますが、今回はサイドボードはまったく考慮しません。

とりあえず、友好色デッキ5種のデータをもとに評価。結果はこうなりました。
数字は「勝率% (勝ちゲーム数/ゲーム総数)」で示しています。

vsWUvsUBvsBRvsRGvsGW勝率平均
WU- 67%(6/9) 80%(4/5)100%(5/5) 33%(3/9) 70.0%
UB 33%(6/9)- 67%(6/9) 50%(5/10) 50%(5/10) 50.0%
BR 20%(1/5) 33%(3/9)- 0%(0/5) 33%(3/9) 21.7%
RG 0%(0/5) 50%(5/10)100%(5/5)- 60%(6/10) 52.5%
GW 67%(6/9) 50%(5/10) 67%(6/9) 40%(4/10)- 55.8%
注目する色が含まれるデッキの勝率の平均を取って「色の強さ」とし、高い順に並べるとこのような結果になりました。たとえば、白なら ( WU:70.0% + GW:55.8% ) ÷ 2 = 62.9% と算出しています。
白: 62.9%
青: 60.0%
緑: 54.2%
赤: 37.1%
黒: 35.8%
※ 「ドラフトの戦略10 〜M11。強い色、弱い色(2)〜」に、対戦ゲーム数を増やした詳しい報告を載せています。(2010-09-01追記)

この結果は、あくまでも「管理人のGR」が「上のモデルデッキ」でプレイした結果を示しただけです。強力な1枚のレアカードの参入や、デッキに入れるスペルの変更によっても、結果は大きく変わるはずであり、また、プレイスタイル、すなわち誰がプレイするかによっても結果は変わってくるでしょう。
ほとんどの試合において実際に勝負を動かすのは、コモンのカードによってではなく「爆弾となるカード」によってです。対処できないと他がどれだけ勝っていても負ける可能性があります。個人的には、この爆弾カードをどれだけ取れるかが、本質的な勝敗の分かれ目と言ってよいのではないかと思います。
青白がやたら強いのは、《セラの天使》《鎧をまとった上昇》《精神の制御》《睡眠》といった爆弾カードが、他の色の組み合わせに比べて多く含まれていたことが原因かもしれません。
ただ、そこそこの数が回ってくる「アンコモンに強力なカードがどれだけ散らばっているか」が、コモンの質と同様に、色の強さを計る目安としては重要になりそうです。その意味では、M11環境では白や青に軍配を上げてよさそうです。

 まとめ

いろいろやってみましたが…… 結果としては、大して認識は変わりませんでした。
(強い) 青 > 白 > 緑 > 黒 > 赤 (弱い)
自分の場合、緑を過大に、青や黒を過小に評価する傾向があるようなので気をつけたつもりですが、それでも私GRが評価している以上は、こういう順にしかならないようです。
ただ、平均的な色の強さの議論なんて、強力カードが1枚出ればどこかに吹き飛んでしまうもの。ピックの際は意識しても仕方のないものです。色を決め打ってピックする機会(?)がもしあれば、参考にしてください。

 おわりに

流れてきたカードに応じて最適な色の組み合わせを模索するのがベストだと私は思います。ピックの途中で「弱い色だから」という理由で勝負を投げることも馬鹿げていますし、「強い色をやれた」からといって安心はできないのがドラフトです。だからドラフトはおもしろい!
過去の勝ち負けに関わる思い込みなどを排除できるので、3番目に書いた「モデルデッキを作って対戦させるやり方」が私個人としては一番しっくり来ますが… これ以上の方法は思いつきませんでした。
色の強さの評価について、良いアイデアをお持ちの方いましたら教えてくださいませ。
ではまた!

第8回】 ← ドラフトの戦略 → 【第10回



'Blinkmoth'トップへ戻る